物書きの1人語り

物書きの戯言です

コンビニでの密かな楽しみ

    一年前、私は大阪に引っ越してきた。
    学校に行く為に地元から離れた私は、不安で仕方がなかった。心が縮むような感覚を、今でも覚えている。
    その時に、私はご飯を買いに近くのコンビニに寄った。そのコンビニに、笑顔の素敵なお姉さんがいたのだ。
    そもそも、私はコンビニ自体そこまで行かない人間だった。食事は母の手作りを食べていたから、自分がコンビニに買いに行く事などほとんどなかったのだ。
    しかし腹は減る。一人暮らしで不安など言ってられない。親元から離れるとはそういう事だ。私は近くのコンビニに初めて入った時、そんな気持ちを抱えていたのだ。
   だが、その気持ちを和らげてくれたのが先程話したお姉さんである。お姉さんは私に気軽に話しかけてくれて、レジで会う度に何気ない話をして帰っていた。
   慣れてくると、お姉さんは私の服を褒めてくれたり、早い時間に行くと「今日は早いですね」と笑っていた。その時間が、私にとってとても楽しい時間だった。レジでほんの少し話すだけ。そのほんの少しが、私の心に優しい水を注いでくれたと言っても過言ではない。
    二年生になっても、お姉さんとの時間を大事にしよう。春休みが終わって大阪に帰ったら、また会いに行こう。春から二年生になったんですよ、と言いに行こう。
    そう思っていた。それが出来ると思っていた。そのはずだったのに。
「……あれ?」
     春休みが終わってからコンビニに行くと、お姉さんはいなかった。一回だけかと思ったら、二回目もいなかった。三回目も四回目も、いなかったのである。
(どうして……?  どうしてお姉さんがいないの……?)
    密かな楽しみだった。お姉さんに「お久しぶりです!」と言いたかった。でもいない。どこを見渡してもいない。
    店員さんに聞こうかと思ったが、聞いていいものか分からず、うずくまりたくなった。疑問だけが湧き上がり、膨張していく。早く聞きたいけど聞きたくない感情が、頭の中を駆け回る。
    他の人から見たら、大した事はないかもしれない。え?  そんな事?  と思うかもしれない。でも私にとっては大きな事なのだ。あのお姉さんに、私は助けられた。だからこそ何度でも言いたかったのだ。
「いつもありがとうございます」と。
    近いうちに、私は他の店員さんに聞く事だろう。その結末が「今は休暇を取ってるので、それが終わったら帰ってきます」だったらいいのに、と思う。あのお姉さんともう一度話したかった。その願いが叶う事を、今も信じている。